【FT要約】「戦争の定義」を書き換える保険会社 — ロイズが狙うグレーゾーンのマネタイズ|英文ビジネスニュース日本語解説



この記事の論点:

大国間の緊張に伴う地政学リスクの増大。保険業界が直面する「戦争」の定義の難しさ。

— 曖昧なグレーゾーンの衝突を巡る、保険会社よる冷徹な計算を解説。

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飛行機がロシアに盗まれた日:保険業界を揺るがした「数兆円の泥沼裁判」

... he said that insurers’ large losses stemming from aircraft stranded in Russia demonstrated that “clarity is really helpful”.

「(事前に)明確にしておくことは極めて有益だ」

ある法律専門家は、航空機がロシアに留置された(stranded)過去の教訓をこのように述べた。

2022年のウクライナ侵攻時、ロシアの航空会社にリースされていた西側の旅客機がロシア国内に差し押さえられた。この「事故」を巡る想定外の巨額の支払い義務を巡り、保険会社は長期にわたる裁判闘争に巻き込まれた。

何故なら、この差し押さえという「事故」が、保険会社にとって免責となる「戦争」なのか、そうならない「政府による没収(政治的リスク)」なのか、線引きが曖昧だったからだ。

払うのか、払わないのか。そのための「clarity(明確さ)」を担保する基準は、保険会社にとっては生命線だ。

今回紹介する記事は、最近の流動的な国際情勢を受けた、その生命線たる「基準」を巡る保険業界の動きについて伝えている。

ぜひ全文を読んで欲しい。

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5大国が戦えば「世界終了」… では、戦わずに潰し合う場合は?

Insurers at Lloyd’s of London are examining the wording of the so-called Five Powers exclusion, standard in marine contracts, which stipulates that coverage would be cancelled if war broke out between any of the US, UK, France, China or Russia. 
Underwriters reason that this scenario would be so catastrophic that they could face a cascade of losses.

船舶・貨物などの海上保険契約の世界に、「5大国除外条項(Five Powers exclusion)」というものがある。

「5大国」とはアメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシアのことを指す。この条項は、仮にこれらのいずれかの間で戦争が勃発した場合、保険会社は保険補償を失効させる(coverage would be cancelled)旨を定める契約フォーマットだ。

そんな条項があるのは、一旦これらの国の間で戦争となれば、保険会社にとって連鎖的な大損失(a cascade of losses)になるのが確実だからだ。

自然災害はある程度データに基づいた確率計算が可能だが、大国間の戦争は人間の意図によって被害規模が際限なく拡大し得るため、リスクの予測やコントロールが極めて難しい。

そんな「世界の終末」とも言えるレベルの損害を通常の保険で補償するのは、ビジネスとして到底成立しないのだ。

ところが、保険界の「最後の砦(駆け込み寺)」と言われるロイズ・オブ・ロンドン(ロイズ保険組合)のアンダーライター(保険引受業者)達は、最近の国際情勢を受け、この「5大国除外条項」を見直すべく文言を精査している(examining the wording)とのことだ。

どういう意図によるものだろうか。

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「領空侵入、兵器発射なし」は戦争か? 現代の生ぬるい敵対関係

Under the clause being considered, a Chinese drone flying into US airspace would not trigger automatic cancellation of coverage unless weapons were released. 
The same would go for a covert Russian submarine committing acts of undersea or offshore sabotage in UK waters, unless weapons were released or the incident resulted in “casualties equivalent to those sustained in an armed attack”.

具体的な以下のケースで考えてみよう;

  • 中国のドローンが米領空に侵入。兵器は発射していない。
  • ロシアの潜水艦が英領海内で海底インフラへの妨害行為を隠密に行っている。兵器の発射はない。武力攻撃と同等の死傷者も出ていない。

このような事態は、今どこかで発生していたとしても驚きはない。逆に言えば、今の国際情勢はそこまでのレベルにまで達している。

検討されている新しい条項案によれば、これらのケースに関しては「保険の自動失効は無い(would not trigger automatic cancellation)」— すなわち、生じた損害は保険でカバーされることになるというのだ。

ただし、これを受け、「保険会社が親切心からカバーされる領域を広げようとしている」と解釈するのは早計だ。

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「倫理より経済」:免責で大負けした保険ボスたちが企む“グレーゾーンの有料化”

But growing tensions between superpowers have prompted a new attempt to draw clearer lines between hostile activities and acts of war.

超大国間の緊張が高まる中、保険のプロフェッショナル達は、補償される「敵対的な活動」と、補償されない「戦争行為」との間に、より明確な一線を引こう(draw clearer lines)としている。

誤ってはいけないのは、「保険会社は想定外の巨額の支払いを可能な限り避けたい」という厳然たるビジネスの原則だ。これは倫理の問題ではなく、純粋な経済原理である。

冒頭に紹介した、リースされていた航空機がロシア国内に留置(実質的な接収)された2022年のケース。当時、保険会社は「戦争免責」を主張して支払いを拒否した。ところが、数年にわたる大規模な法廷闘争の末の結果は、保険会社側の敗訴と、リース会社に対する巨額の和解金の支払いという散々なものとなった。和解金を受け取ったリース会社には日本の企業も含まれている。

この痛烈な教訓を基に保険業界が考え出したのが、『引き受け可能なグレーゾーン(5大国間で十分に起こり得る事態)を明確に切り離し、そこを別料金(高い特約保険料)で売る』という戦略だ。

これは保険を契約する企業の立場になると理解しやすい。地政学的なリスクが高まる中、企業としては、簡単にキャンセルになるような保険契約は保険料をドブに捨てるようなものだ。他方で、ドローン飛来のような十分起こり得る「グレーゾーン」には備えざるを得ない。他にチョイスがなければ、割増の保険料を払っても保障をつけるしかないのだ。

保険会社サイドで見てみよう。過去に「戦争免責」で負けた彼らとしては、「全面戦争」の自動キャンセル(免責)は絶対に死守しつつも、「グレーゾーン」で賢く儲けるやり方を模索してきたというわけだ。

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予測不能な未来を先回りできるか? 結局、最後は「裁判」がすべて

Others warned against pre-empting the insurance market, pointing out that war scenarios are deeply unpredictable. The most controversial claims are typically tested in court.

今回の改定があれば、少なくとも「契約の安定性」は向上する。ただし当然問題もある。

その一つは、「戦争状態」を定義するのは誰かという問題だ。もちろん、現在のウクライナ情勢や中東情勢のように、明らかに武力衝突が起きている場合は「戦争状態」だと誰もが判断できる。しかし、境界線が曖昧なグレーゾーンの事態において、権威をもってそれを「戦争(=保険失効)」だと認定するのは誰かという論点は依然として残る。

つまり、本来的に極めて予測不可能(deeply unpredictable)な「戦争」について、保険市場の動きが完璧に先回りする(pre-empting the insurance market)ことにはそもそも無理があるのだ。

結局、先のリース航空機の接収のように、境界線にある議論が分かれる請求は、これからも最終的には「裁判」で争われることになるだろう、と専門家は指摘する。

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予測不能な未来を言葉(条項)で縛ろうとする人間たちの知恵比べ。

「平和の維持」が叫ばれる裏で、保険会社はすでに「次の衝突」がいくらになるのかを冷徹に値踏みし始めている…

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