容赦ないFRB追求、報いを受けるのは全世界…|Financial Times|サクッと読める英文ビジネスニュース
Donald Trump’s attack on Fed shifts market bets on interest rates and inflation|Financial Times|2025.08.26
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“If successful, this [will be] an important dent in central bank independence,” said Marieke Blom, chief economist at Dutch bank ING.
“People pay a high price via higher inflation and higher interest rates when central bank independence is lost.”
「もし成功すれば、これは中央銀行の独立性に対する重要な打撃となるだろう」
銀行エコノミストのコメントだ。
これだけで政治臭がプンプンするだろう。
ちょっと専門的な話になるが、株式、不動産、社債などの資産は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価される。米国債金利はこの割引率の基準となる「リスクフリーレート」として使われるのだ。
「成功すれば」とされているのは、不祥事を理由にトランプ大統領がFRBの理事を解任しようとしている件を指す。
ただこの不祥事、8月25日付FT記事が伝えるように、例によって、相当政治的な思惑が背景にあるようだ。
ぜひ全文を読んでほしい。
ぜひ全文を読んでほしい。
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|「仕組まれた」告発?
8月25日、トランプ米大統領は自身のSNSでFRB理事のリサ・クック氏を即時解任する意向を発表した。本騒動の背景はNYタイムズのポッドキャスト「Trump's Takeover of the Fed」が詳しい。まとめると概ね以下の内容だ;
- トランプ前大統領は、クック理事が複数の住宅ローン申請で「主たる住居」として虚偽の申告をしたと主張し、「金融規制当局者としての信頼性に疑問がある」として即時解任を表明。
- リサ・クック氏は黒人女性。トランプ氏に公然と反対しているわけではないが、バイデン政権によって連邦準備制度理事会に任命された人物。
- クックに対して住宅ローン詐欺の疑いをかけている人物は、連邦住宅金融庁(FHFA)理事のビル・ピュルト氏。同氏は他にも、カリフォルニア州選出の上院議員やニューヨーク州司法長官といった複数の反トランプ派の著名人に対して住宅ローン詐欺の疑いをかけた過去。
これだけで政治臭がプンプンするだろう。
「主たる住居」の虚偽とは、通常より有利なローン条件となる連邦支援の住宅ローンを受けるために、居住目的でもないのに「住居」であると嘘をつくことを指す。このような虚偽の申告は「居住者詐欺(owner-occupancy mortgage fraud)」と呼ばれ、重大な違反となるのだ。日本でも例えば、ワンルーム投資詐欺のスキームで同じような虚偽申告がされる場合がある。
なお、疑われたこれらの人物は、いずれも正式に起訴されておらず、全員が不正行為を否定しているとのことだ。もちろんクック氏も「脅されて辞任するつもりはない」と明言し、司法判断を求める意向を示している。
この即時解任声明は金融市場に敏感な反応を引き起こした。ドル売りが強まり。円は一時146円台まで急騰した。
なお、疑われたこれらの人物は、いずれも正式に起訴されておらず、全員が不正行為を否定しているとのことだ。もちろんクック氏も「脅されて辞任するつもりはない」と明言し、司法判断を求める意向を示している。
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|市場は敏感に反応
The gap between long- and short-term yields climbed on Tuesday to its widest in three years. The shift points to concerns that the Fed will begin lowering rates soon because of mounting political pressure, but will then need to increase them years down the line as policymakers battle inflation.
この即時解任声明は金融市場に敏感な反応を引き起こした。ドル売りが強まり。円は一時146円台まで急騰した。
上の引用が言っているのは、金利カーブがスティープ化した(金利が短期低下・長期上昇)ということだ。 どいうことかというと;
- 将来的な利下げの可能性が高まると見られ、短期金利が低下: クック理事の解任でFRB理事会の構成がよりハト派(金融緩和)的になる可能性が意識された。
- 逆に、FRBの独立性が脅かされる懸念・インフレ対応の信頼性低下により、長期金利が上昇: タームプレミアム(期間プレミアム)が上昇した。
冒頭の「人々は高インフレと高金利を通じて高い代償を払うことになる(People pay a high price via higher inflation and higher interest rates when central bank independence is lost.)」とするエコノミストのコメントは、短期ではなくて長期での人々への影響のことを言っている。
「トランプ派が増えるのであれば、これからは利下げになるのでは?」というのは短期的な話でしかない。
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Central bank independence and reliable economic statistics have been cornerstones of developed markets in recent decades, and US Treasuries provide benchmark rates that underpin trillions of dollars of financial assets.
Fraser Lundie, global head of fixed income at Aviva Investors, said any government “exhibiting instability of institutional arrangements and at risk of direct political influence” would result in a weaker currency, a steeper government bond curve and a higher so-called risk premium attached to long-dated debt.「中央銀行の独立性と信頼できる経済統計は、近年の先進国市場における礎石となってきた」と本記事は伝える。なぜなら、米国債の金利は、少なくともドル建てのほぼ全てのアセット価格に影響を与える非常に重要な指標だからだ。
ちょっと専門的な話になるが、株式、不動産、社債などの資産は、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価される。米国債金利はこの割引率の基準となる「リスクフリーレート」として使われるのだ。
この「基準となる金利」が、経済でなく政治の都合で決まるとなると、そんな資産の価値は信用できない、つまりはドル建ての資産のほぼ全て、要はドル自体が信用できないとなり、そんな価値のないドルは安くなっていく(would result in a weaker currency)ということになるのだ。
「トランプ氏によるFRBへの圧力は、いわゆる『財政支配(fiscal dominance)』の新時代を象徴する最も顕著な例である」と本記事は伝えている。
どういうことかというと、この文が言う通り「政府が巨額の債務を抱える中で借入コストを低く抑える必要性によって、中央銀行の政策が左右されるようになる状況」を言っている。このことを、金融政策が政治的・財政的な都合に従属するリスクという意味で「財政支配」という。
実は日本も、①長期にわたる低金利政策と国債大量発行、②日銀による国債の大量保有 の点で、財政支配の典型的な構造と解釈されるのは、過去の記事で紹介したとおりだ。
クック理事の研究分野は、「経済的不確実性」だそうだ。政策・金融・地政学的な不確実性が経済の結果や金融政策にどのように影響するかを分析している、NYタイムズポッドキャストは伝えいている。
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|中銀への政治的圧力が示すもの=「財政支配」
どういうことかというと、この文が言う通り「政府が巨額の債務を抱える中で借入コストを低く抑える必要性によって、中央銀行の政策が左右されるようになる状況」を言っている。このことを、金融政策が政治的・財政的な都合に従属するリスクという意味で「財政支配」という。
実は日本も、①長期にわたる低金利政策と国債大量発行、②日銀による国債の大量保有 の点で、財政支配の典型的な構造と解釈されるのは、過去の記事で紹介したとおりだ。
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クック理事の研究分野は、「経済的不確実性」だそうだ。政策・金融・地政学的な不確実性が経済の結果や金融政策にどのように影響するかを分析している、NYタイムズポッドキャストは伝えいている。
不確実性のリスクを指摘する者が粛清されつつある、足元のアメリカはそのような状況なのだろうか…
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