財政至上主義に陥る日米欧|Financial Times|2025.06.06

FT|The mounting pressure on bond markets|2025.06.06




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For the first time in almost a generation, governments are starting to face resistance from the market when they try to sell long-term debt.

「この数十年で初めて、政府は長期債マーケットからの抵抗に直面しつつある」 

6月 6日付の FT 大型特集「The mounting pressure on bond markets」は、先進国の超長期金利が軒並み上昇し数十年ぶりの高さとなった状況をどう考えるべきかについて、貴重な材料を与えてくれている。

ぜひ記事全文を読んでほしい。


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|「債務の持続可能性」とは?

 "It's a classic supply-and-demand mismatch problem but on a global scale," ... "The era of cheap, long-term funding is over, and now governments are jostling in a crowded room of sellers."

6 月上旬の日米英仏 30 年国債の利回りは高止まり又は上昇した。30 年債利回りが一時 5.15%に達した米国では大型減税法案によって財政赤字が拡大することが懸念されている

日本はというと、30 年債利回りが 2.78%前後の高水準で推移しているが、521日には3.185%という過去最高水準を記録した

こうなった背景は、上で言っているように、需要と供給のミスマッチ(supply-and-demand mismatch)が世界レベルで起こっている(on a global scale)ためだ。需給のミスマッチを簡単に言えば、国は超長期で借りたいにも関わらず投資家からの人気がない状況をいう。



The reticence among some investors has taken 30-year government borrowing costs in countries such as the UK, Japan and the US to, or near, their highest in decades and moved the question of debt sustainability up the political agenda. In many countries, the cost of servicing debt interest threatens to squeeze government spending.
なぜ投資家からの人気がないかというと、皆が「debt sustainability」を不安視しているためだ。デット・サステナビリティが不安とは、国の財政に不安を感じている、つまり、国や政府が借金(債務)を無理なく返し続けられるかの信用がなくなりつつあるということだ。

国の信用がなくなると、国が借金するためのコストである国債の金利は上がる。債券の利回りと価格は逆の動きをするから、超長期国債の価格は購入の後持っている間に激しく下がるかもしれない。そんな国債に人気が集まるわけがない。



Questions over demand for long-term sovereign debt have been exacerbated by an exodus of some of the more reliable buyers of this government paper.
A similar effect is playing out in Japan, where the country's postwar baby boom generation is aging and no longer needs the same level of long-term holdings, analysts say.
超長期債の人気が低下しているのには構造的な要因もある。記事ではイギリスの年金基金の例を紹介しているが、これまで超長期債でも運用してきた年金基金は、運用成果を受け取るべき加入者がじわじわと亡くなりつつあり、プランへの新規加入も止めているので、今いる加入者への年金支払を賄うために数十年にわたって運用を行う必要がなくなった。

 

ベイビーブーマーが減りつつある日本もイギリスの状況に似ているとされており、構造的に超長期国債への需要は弱くなっていく。もっとも日本の場合、加えて、日銀が国債の買い入れを減額していること、銀行や生保などの金融機関の購入意欲が衰えたことも原因とされている。



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|超長期債の金利が上がって何が悪い?

Borrowing costs have been marching higher since the Covid pandemic as inflation rose and central banks reduced their buying. But the recent selling has been especially felt in long-term debt, where prices have fallen faster and yields risen more than in shorter-term bonds.
This is a problem for governments, which issue debt as a range of maturities not only to meet the demands of different investors but also to spread out their own refinancings and reduce exposure to swing in interest rates.
超長期の金利が上昇するのはなぜ問題か。さすが FT は明快に解説してくれる。

国・政府としては、当面の支出のために必要となった借り入れは、できれば短期から超長期に年限を分散して返済したい。ところが、せっかく伸ばした分の金利が政府の許容水準を超えて高くなてしまうと、国は短期の借入で回していかざるを得なくなる。短期の金利は金融市場の不安定な部分をより反映しやすく、これをボラティリティーが大きいという。

国のGDPより大きな借金の借り換えをそんなボラティリティーの大きい借入に頼るということは、財政の自由度がより制約されることを意味する。



France's debt burden was described as a "Sword of Damocles" last year by then prime minister Michel Barnier. Europe's third-largest economy is expected to spend EUR62bn on debt interest this year, roughly equivalent to combined spending on defence and education, excluding pensions.
記事が紹介している例がフランスだ。同国の国債利払い費は、防衛と教育予算を足した額に匹敵する。この財政の危機的な状況について、フランス元首相のバルニエ氏は、王座に座ることを望んだダモクレスの頭上から細い馬の尾の毛で吊るされた「ダモクレスの剣(Sword of Damocles)」に例えた。一見栄華の中にいても常に危険に晒されていることを意味するらしい。

財政危機としては日本も似たような状況だ。2025 年度予算における国債の利払い費は 10.5兆円。これは公共事業費 6.1兆円と文教および科学振興費 5.3兆円を足した額に匹敵する。



One concern is that deteriorating debt dynamics in some countries make them less resilient to future surprise or bad political choices. "In a handful of countries, debt is sustainable but vulnerable to new shocks,"

短期の借り入れに依存すると、例えばコロナのような将来見通しに対するショックだったり、タイミングの悪い減税のような誤った政策だったりに反応して、利払い費の額がブンブン振れることになる。つまり、上に書いているように、国の経済がよりショックに対してより脆弱になってしまうということだ。



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|財政と経済とが両立しなくなる日…

The danger is that government spending and the need to maintain orderly debt markets become a dominant force for monetary policy, rather than other factors such as economic growth or inflation. "What I'm really concerned about is that you end up in the fiscal dominance story,"
問題は、そういった場合に為政者がどちらを選択するかだ。当面の財政の安定か、それとも、経済再生や物価安定か。

そんなときは前者の「財政」が優先される事態があるのでは、と専門家は危惧している。「財政支配(fiscal dominance)」という状態がそれだ。政府の財政状況に縛られて、中銀が自由に金融政策を動かせなくなってしまうことを指す。あり得るシナリオとしては、市場で消化しきれなくなった国債を中央銀行が買い支える、これは金融緩和にあたるだが、そのせいで生じるインフレの抑制といった本来の金融政策目標が後回しになることが考えられる。

「財政支配」の実際の例としてよく言われるのは、1980年代から現在に至るアルゼンチンだ。慢性的な財政赤字と外貨不足を背景に、中央銀行は政府債務のファイナンスを優先し、インフレ抑制が後回しになった。同国では高インフレと通貨危機が繰り返され、IMF支援を何度も受けることとなった。


近年の日本はどうか。当局は否定するだろうが実態は怪しい。政府の債務負担軽減を優先して日銀が金利を上げにくくなったとして、「事実上の財政ファイナンス」状態にあると指摘されてたりしている。



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For many investors, the economic ill-effects on the long build-up in sovereign debt are a bigger concern than the more remote possibility of a government bond meltdown in a large economy.
そんな中、タイミングよく、日銀の内田副総裁によるコメントがニュースに上がった。先日の講演で同副総裁は、日銀の国債買い入れと保有は「政府による財政資金の調達を支援するためのものではない」と指摘した。
さらに、金融政策を「財政状況への配慮によって曲げることはないという結果が必要だ」と語った。問題は、どこまでこの建前を通せるかだ。


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That will mean tougher decisions over public spending.

政府債務をさらに盛ると言われているトランプ減税法案は、富裕層減税の一方で低所得者向けの公的医療保険を削ろうとしている。


アメリカに限らず日本でもいつか、公金の使い道についての「困難な決定(tougher decision)」が待ち構えている、ということなのでないか。


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