【FT要約】「国債を燃やせば借金は消える?」仏大統領選のヤバすぎる公約と、欧州を揺るがす財政危機|英文ビジネスニュース日本語解説
"Borrowing money and deciding not to give it back — that is called theft," said Sébastien Lecornu, prime minister, in response to the proposal on X.
「金を借りておきながら返さないと決めること――それを『窃盗(theft)』と呼ぶ」
来年春の大統領選挙に向け、早くも不穏な空気が漂うフランス。
有力候補であるメランション氏がブち上げた“トンデモ提案”に対し、ルコルニュ首相がツイッター(X)で猛烈に批判した一幕が話題になっている。
メランション氏が率いるのは、急進左派政党「不服従のフランス(LFI)」。マクロン大統領の中道派与党が苦戦を強いられる中、この選挙戦の最大の争点になっているのが「フランスの深刻すぎる財政危機」だ。
今回紹介する記事は、そんなフランスのヤバすぎる内幕について見ていこう。併せて記事原文もぜひ読んでほしい。
|フランス極左の暴論「中銀の国債を火にくべろ」
“French politicians and economists are fighting over the claim by far-left presidential hopeful Jean-Luc Mélenchon that France could simply "take" bonds accumulated by the Banque de France during years of ECB quantitative easing and "throw them into the fire".
フランス極左のリーダーが放った爆弾発言――それは「国家債務の一部を帳消しにするために、中銀にある国債を奪って火の中に投げ込めばいい」というものだった。
もっとも、流石にフランス国内でも、銀行や個人が持っている国債を文字通り紙くずにするなどと言い出す政治家は他にいない。
メランション氏が「火にくべろ(throw them into the fire)」と言っているのは、過去のデフレ期に欧州中央銀行(ECB)の量的緩和プログラム(国債購入)に伴って、フランス銀行(中央銀行)が積み上げた国債のことだ。
「一般の銀行や個人が持っている国債じゃなくて、国の中央銀行が持っている分なんだから、帳消しにしてもデフォルト(債務不履行)にはならない!」というのが彼の主張。もちろん、この滅茶苦茶な言い分は、中央銀行やエコノミストたちから総スカンを食らっている。
|ジリジリと追い詰められるフランス経済、専門家が「ギリシャ危機並み」と怯える理由
“The debate has ignited just as bond investors have targeted France for its deficit of more than 5 percent of GDP and government debt that will be just shy of 120 per cent of GDP this year, both among the worst in the EU.
France's 10-year borrowing costs have risen above 4.6 percent, the highest since 2008, as an Iran war sell-off in global bonds is exacerbated by domestic concerns.”
こんな過激な提案が俎上に上る背景には、フランスの深刻な財政危機がある。財政赤字はGDP比5%超、政府債務は今年120%近くに達し、ともにEUワーストクラスだ。
そんなボロボロの財政状況を背景に、フランスの10年物国債利回りは2008年以来の高水準となる4.6%超まで跳ね上がった。市場はすでに「フランス売り」を始めているのだ。
ここで投資家たちが固唾を呑んで見守っているのが、「フランスとドイツの10年物国債の利回り差(スプレッド)」だ。ユーロ圏の優等生であるドイツと比べて、その国がどれだけ信用されていないかを示すバロメーターである。
現在、フランスのスプレッドは1.54%まで拡大した。これは、ギリシャ危機などでユーロ圏が崩壊寸前だった2011〜12年以来の最悪水準に並ぶ勢いだ。
つまり、今のフランスは「欧州危機当時のギリシャ並みにヤバい」と市場から見なされていることになる。しかも、直近の世論調査では、先ほどの過激なメランション氏が決選投票に進む可能性が浮上した。対決相手とみられる極右のル・ペン氏も大型減税とバラマキを掲げており、どっちが勝ってもフランスの借金がさらに膨らむ絶望的な状況だ。
|もし「借金をチャラ」にしたらどうなる? 世界が笑う「フランスの茶番」
“In reality, economists argue that the proposal is technically problematic and could trigger a dramatic market sell-off that would push up French debt-servicing costs further and inflict losses on other big holders of government bonds.
Many observers have chuckled that the debate has turned into a particularly French circus, a reflection of how disconnected from reality the campaign could get.”
メランション氏の言う通り、仏中銀が持つ国債(総借入額の約14%、約4,880億ユーロ)を帳消しにできれば、政府の借金苦は一時的に軽くなるかもしれない。
しかし、現実はそんなに甘くない。エコノミストたちが口を揃えて警告しているのは、こんな暴挙に出れば「劇的な市場からの見放され(暴落)」を誘発し、かえってフランスの首を絞めることになるという点だ。
国債の価格が下がって金利が跳ね上がれば、国債を握りしめている現地の民間銀行などが大損をこく。結果として銀行が貸し渋りを始め、経済全体が冷え込む「信用収縮」を引き起こすのは目に見えている。
こんな現実離れした提案がまかり通る大統領選の泥仕合に対して、海外メディアからは「フランス特有の茶番劇(a French circus)」と冷ややかな笑い声が漏れているのだ。
|「借金帳消し」は他人事ではない? 世界で広がるポピュリズムの罠
“"We are in this impasse in which there are so many imperatives to spend on, no one wants to increase taxes... every politician is seeking a way to manoeuvre," he said. "Donald Trump promises $5,000 cheques. In France we are promising to cancel debt."”
「やりたい政策のための予算は山ほどあるのに、誰も増税なんてしたくない(there are so many imperatives to spend on, no one wants to increase taxes)。だから政治家は抜け道(manoeuvre)を探し回るんだ」専門家はこう指摘する。
トランプ氏がアメリカ国民に太っ腹な小切手を配ると約束したように、フランスの「借金帳消し」も、耳障りの良い公約で票を釣ろうとするポピュリズムの典型だ。そして、耳当たりの良い減税ばかりが目的化してしまっている日本も、決して対岸の火事とは言えないはずである。
「使いたいお金は減らせない、でも増税は嫌だ」という袋小路。私たちが「痛みを伴う現実」から目を背け続ける限り、世界中の政治が安直な「抜け道(=甘い嘘)」に走り続ける――今回のフランスの騒動は、そんな現代民主主義の痛いところを突いている。
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