【CNN要約】「利下げしなければ貿易を止める」―大統領の脅迫とFRBの攻防、市場が震える論理の破綻|英文ビジネスニュース日本語解説




この記事の論点:

「貿易停止」という人質とFRBへの圧力——トランプ氏の利下げ要求と揺れる中央銀行の独立性

— 強固な労働市場と過熱する利上げ議論の中、なりふり構わぬ牽制を続ける背景とリスクを考察

* * *
“LOWER THE RATE OR I’LL STOP TRADING WITH COUNTRIES WITH WHICH WE HAVE A DEFICIT,”

「利下げを行わなければ、我が国が赤字を抱えている国々との貿易を停止する」

またしてもSNSに投下された大文字の爆音である。トランプ大統領のツイートだ。

ここでの「the rate」とは勿論、連邦準備制度理事会(FRB)が決定する政策金利のことだ。トランプ大統領は前FRB議長の時代から、一貫して「利下げ」の圧力をかけ続けている。

だが冷静に考えるべきだ。トランプ氏が人質にとっているのは、言わば「アメリカ、いや世界経済全体」である。昨年の米国の対外貿易赤字は中国が2,000億ドル以上で最大で、次いでメキシコ、ベトナムが続く。仮に貿易遮断という極論を実行に移せば、深刻な物価高騰を招き、世界的な経済麻痺を引き起こす。

そのリスクをFRB議長に負えというのだろうか。一国の元首が経済崩壊への核ボタンを引き換えに、本来政治的に中立であるべき中央銀行に特定の行動を迫る。

今回紹介する記事は、新総裁の就任後も過熱する「金利の方向性」をめぐる攻防を伝えている。ぜひ全文を読んでもらいたい。

* * *

最高裁判決の「曲解」?強引すぎるロジックの正体

… which the U.S. Supreme Court, in its ridiculous and very costly Tariff decision, strongly acknowledged ‘the President’ has an absolute right to do,”

大統領によるツイートはこう続く。「(貿易の停止は)連邦最高裁判所も、…『大統領にその絶対的な権利がある(the President’ has an absolute right)』ことを強く認めている」と。

この記事では解説していないが、これは大統領による判決の曲解だ。つまり、判決は「法律が認めているのは、制裁や安全保障上の理由で貿易を規制・禁止(stop/regulate)することであり、政府の財源となる関税を課す(tax)ことではない」として関税を違法としたにすぎない。それを「貿易を禁止する権利ならある」と逆手に取っているのだ。

本来、禁止できるのは安全保障に関連する物品のみを指すとするのが自然な解釈だろう。トランプ氏本人の解釈も大概だが、政権スタッフがボスに中身をちゃんと説明していないことには驚きを隠せない。

* * *

爆発的な雇用統計が火に油を注ぐ―利上げ阻止へのなりふり構わぬ牽制

Trump’s threat came shortly after August’s surprisingly hot jobs report showed that US employers hired 162,000 new workers that month, more than double the level economists anticipated.
The strong report opens the door even wider for the Fed to hike interest rates to fight back against inflation concerns. Officials meet later this month to decide where rates should be.
Warsh signaled last week that he is open to raising rates if inflation remains too high.

過激な発言が飛び出したタイミングには明確な理由がある。直前に発表された8月の雇用統計が「予想の2倍以上」という極めて強い(surprisingly hot)数字を叩き出したからだ。

堅調すぎる労働市場とインフレリスクは、中央銀行にとって「利上げ」の強力な根拠となる。事実、ウォーシュ議長も「インフレが十分に収まらなければ、やるべき仕事がある(“We must be confident that underlying inflation is moving to our objective... Otherwise, we have work to do,”)」と述べ、追加利上げの選択肢を排除していない。

大統領の「脅迫」は、まさにこの利上げ路線を力づくで抑え込むための牽制に他ならない。市場の視線は、来週発表される消費者物価指数(CPI)へ注がれている。

* * *

なぜ「成長=インフレ」を否定するのか?背景にある成功体験と信念

It’s not the first time this week Trump has called for lower interest rates. Speaking to reporters in the Oval Office on Monday, Trump said it was “ridiculous” to even discuss raising them.
“It’s ridiculous because success in growth does not cause inflation,” Trump said. “Inflation’s caused for other reasons.”

利下げの要求は一過性のパフォーマンスではない。過去には、FRBへの影響力を強めるべく、理事の解任にまで動いた歴史もある。その試みは失敗に終わったが。

トランプ大統領は利上げについて議論すること(to even discuss raising them)自体が「馬鹿げている」と切り捨てた。果たして、この強い信念はどこからくるものなのだろうか。

一説には、その源泉は「第一期政権での成功体験」にあるとされる。当時、大規模減税と規制緩和によって強い経済成長を実現しつつ、インフレ率を2%前後に抑え込んだ実体体験があるからだ。

「成長による成功がインフレを引き起こすことはない(success in growth does not cause inflation)」という主張は、彼にとっての揺るぎないリアルなのだ。

* * *

試される中央銀行の独立性―ハッタリに屈しない金融政策を

“IT’S BETTER THAN TARIFFS! The Fed Board, with its great new leader, must get smart - BE PATRIOTS for a change.”

他方で、通常を超えるペースの物価上昇については、金融を引き締めるか、需要が引き締まるかしなければ収まることはない。いずれにせよ一定の景気減速は避けられないが、それを軟着陸(ソフトランディング)させるためにウォーシュ氏や植田氏が「納得解」を探っているのが現実なのだ。

「(貿易停止は)関税よりも効果的だ!素晴らしい新たなリーダーを迎えたFRB理事会は、賢くなるべきだ。たまには愛国者になれ(BE PATRIOTS for a change)」

このような政治的皮肉とハッタリに動じない、データに基づいた秩序ある金融政策の運用を期待したい。

*****

💡 この記事が役に立ったと感じた方へ

当ブログの知見があなたの挑戦の一助になれば幸いです。

「参考になった」「海外メディア購読など今後の活動を応援したい」という方は、コーヒー1杯分のサポート(100円〜)をいただけますと大変励みになります。

▶️ あわせて読みたい