【FT要約】「人口ボーナス」の罠:インドの爆発する若者失業率と、モディ政権が陥った構造的誤算|英文ビジネスニュース日本語解説
この記事の論点:
高成長の裏に潜む「Z世代の反乱」——モディ政権下のインドが直面する若年失業と構造的歪み
— 世界最大規模の人口ボーナスを誇りながら、なぜ高学歴の若者たちが職に就けないのか。政策的誤解と極端な縁故主義が生む社会問題について考察
“But that promise is not being felt by hundreds of thousands of young Indians, who took to the streets last month in frustration over the lack of opportunities in the world's most populous country.”
数十万人のインドの若者たちは、国家が掲げた「約束」の恩恵を感じられていない。
2024年5月から7月にかけて、インド全土で若者を中心とする大規模な抗議デモが巻き起こった。
機会の欠如に対する鬱屈した不満(frustration over the lack of opportunities)を抱えた若者たちを結びつけたのは、オンライン上で立ち上がった風刺政党「ゴキブリ人民党(Cockroach People's Party: CJP)」だ。SNSを通じて急速に拡散されたこのムーブメントは、政権与党「インド人民党(BJP)」を皮肉ったパロディでありながら、強い連帯を生み出す受け皿となった。
彼らが国に期待していた「約束」とは、ナレンドラ・モディ首相が掲げた「2047年までの先進国入り」という国家目標にほかならない。
このビジョンが強調され始めた2023年秋時点では、高成長を続けるマクロ経済と世界最大規模の人口ボーナスを背景に、野心的でありながらも十分に実現可能な目標と捉えられていた。
日本やドイツを追い抜き、世界第3位の経済大国へ躍進すると見込まれるインド。しかし、その華々しいスローガンの足元で、若者たちにはどのような「ひずみ」が生じているのか。
今回紹介するFTの記事は、その生々しい現実を伝えている。ぜひ全文を一読してほしい。
|怒りの火種は不正試験 — モディ長期政権を揺るがした「Z世代の反乱」
The Gen Z demonstrations, sparked by anger over an exam leak scandal, escalated in a matter of weeks into a broader expression of discontent by youths who feel they have been overlooked by the country's political leadership.
医学部全国統一試験での漏洩スキャンダルを発端としたZ世代の抗議運動は、わずか数週間で教育相の辞任にまで発展した。
約12年間に及ぶモディ一強政権において、閣僚級の大臣が政策・管理責任をとって辞任するのは異例中の異例である。閣僚の「職責の重さ」を痛感させる出来事だった。
問題となった5月の統一試験では、事前に試験問題が流出するという不正が発覚。これにより200万人を超える受験生が再試験を余儀なくされ、絶望による自殺者が相次ぐなど、深刻な社会問題へと発展した。
インドにおける受験戦争の過酷さは映画などでも知られるが、もはや「大学全入時代」を迎えた日本の比ではない。
|若年失業率36%の衝撃 — 高額な学位が「職の保証」にならない悲劇
The problem is acute. India has the world's biggest youth population, with an estimated 370mn people aged 15 to 29. More of them are studying than before, but many have found that hard-won, often expensive degrees offer no guarantee of a decent job.
少子高齢化に悩む日本から見れば「人口ボーナス」は羨望の対象かもしれない。しかし、その圧倒的な若年人口も、活用する受け皿(雇用)がなければ国家的な歪みを生む。
インドにおける15歳から29歳の人口は推計3.7億人と、世界最大を誇る。彼らの高等教育進学率は過去最高水準に達しているが、どれほど苦労して手に入れた(hard-won)高額な学位であっても、それが「まともな職」の保証(no guarantee of a decent job)にはならない現実が浮き彫りになっている。
特に20〜24歳の失業率は36%という極めて高水準だ。記事内では以下のような惨状が報告されている:
- 歯科医院でデータ入力を行う青年は、肉体労働や運転手をしている兄たちよりも収入が低い
- 高額な授業料を払ってMBA(経営学修士)を取得した者が、生活苦からタクシー運転手を余儀なくされている
日本にいると意識されづらいが、海外において高等教育を受ける最大の目的は「より高い報酬を得ること」に集約される。筆者自身、アメリカ留学時、そのことを公言する同級生の潔さに驚いたぐらいだ。
特にMBA取得への巨額投資は、キャリアによる回収が伴わなければ単なる「失敗した投資」に過ぎないのだ。
|「単なる憂さ晴らしではない」 — 政策の失策(blunders)と極端な縁故主義
But critics say that while many other countries struggle to create enough well-paying jobs for young people, the situation in India has been made worse by government blunders.
「インドの構造的危機は、本質的に政府の政策的過ち(government blunders)によって悪化した」
専門家は厳しく指摘する。すなわち、若者たちが向けた怒りの矛先は決して的外れな憂さ晴らしなどではなく、明確な政策批判なのだ。あらゆる問題を個人に帰せがちな「自己責任論」が根強い日本にとっても、この視点から学ぶべき部分は多い。
最大の失策は「需要を無視した学生数の乱立」だ。モディ政権下において、実質経済成長率は2000年代初頭の約8%から6〜7%台へと鈍化している。にもかかわらず、高卒・大卒の供給だけが増え続けた結果、経済需要に対して高度人材が「過剰供給」される歪みが生じた。
さらに、過去の経済政策も爪痕を残している。
2016年に突如断行された「高額紙幣の廃止」は、雇用を支えていた広大なインフォーマル経済を直撃した。加えて、性急な統一付加価値税(GST)の導入や、コロナ禍における予告なきロックダウンは中小企業に壊滅的な打撃を与えた。これら一連の窮屈なビジネス環境が、民間投資の停滞と雇用創出の遅れを引き起こしている。
“India has failed to capitalise on the demographic dividend available to it. It has failed to ensure good-quality jobs for young graduates.”
「インドは自国に与えられた人口ボーナスを活用することに失敗した(failed to capitalise on the demographic dividend)」
専門家がそう語る通り、高学歴な若者に見合う「質の高い雇用」を生み出せないまま、成長の果実が偏っているのが実態だ。
The reason, he added, was “extreme cronyism”.
「極端な縁故主義(クロンイズム)」
記事は、根底にある真の原因としての存在を挙げて締めくくられている。要は頑張っても越えられない天井だ。
今回の試験問題漏えいのように、公正でない競争はそれだけで批判を生む。特に、機会自体が極端に限定されているインドでは、政治問題に至るほど不満が鬱積していたということだろう。
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