【FT要約】原油高でも財政支出は逆効果?EUが恐れる「2022年エネルギー危機」の再来

EU warns capitals against turning energy crunch into fiscal crisis|Financial Times|APR 6 2026



この記事の論点:
原油高への対応で、財政出動はどこまで許容されるのか。
—EUが「2022年」を繰り返したくない理由を整理。


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... she warned that “broad-based and open-ended measures” may backfire as they could fuel demand “excessively” and drive inflation. 
欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド総裁はこう語った。

「広範囲かつ期限の定めのない(broad-based and open-ended)措置」は、需要を「過度に」刺激(fuel demand “excessively”)し、インフレを助長する(drive inflation)」と。

ここでの「措置」とは何かというと、今般の原油高に対応するための『財政支出』のことだ。過度な財政支出は「逆効果になる(backfire)」とラガルド氏は指摘する。

同じことは日本でも散々指摘されてきた。ただ、日本でその議論が始まったのは今回のイラン紛争のはるか前だった。今年の衆院選挙の論点だった「消費減税」を巡る議論が思い出される。

状況的にEUが日本に追いついてきたのか、それとも日本が結論を得ないままズルズルと議論だけしているのか、今回紹介する記事は、そんな考察の機会をくれるEUの財政事情について伝えている。

ぜひ全文を読んで欲しい。


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|欧州委が最も恐れる「2022年エネルギー危機の再来」

The European Commission is insisting in discussions with member states that proposed energy subsidies, tax cuts and price caps be limited in time and scope, according to people briefed on the talks.  
Brussels is seeking to avoid a repeat of the 2022 energy crisis, which fuelled rampant inflation and ballooning deficits.
27カ国がメンバーであるEU。加盟国それぞれに政府があるが、EU全体としての政府(行政機関)として「欧州委員会(The European Commission)」というものがある。ちゃんと大統領(委員長)も閣僚(欧州委員)もいて、ベルギーの首都ブリュッセルにある。

そんな欧州委、今回加盟国に対して、原油高対策は「期間と範囲を限定(limited in time and scope)するように」と要求した。

加盟国政府においてエネルギー価格の高騰への対策として検討されているもの。具体的には、エネルギー補助金、減税、価格上限設定などだ。

これらのうち価格上限設定(price cap)以外のもの、すなわち補助金(energy subsidies)と減税(tax cuts)については、それらを実施又は検討(ガソリン補助金、消費税減税)してきた日本としては既視感がある。

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それでは欧州委がなぜ「限定」を迫っているかというと、「2022年のエネルギー危機の再来(a repeat of the 2022 energy crisis)」を恐れているからだ。

2022年の危機とは、当時のロシアによるウクライナ侵攻を受け、EUでガス価格が最大15倍、インフレ率が過去最高の10.6%となった件だ。各国政府は計6,572億ユーロの巨額支援(EU全体でGDP比で3%前後)を投じたのだが、これがパンデミック後の公的債務をさらに圧迫するという事態になった。

日本と比べて海外投資家による国債保有が多いEUでは、財政悪化懸念は即、長期金利の上昇につながる。その前の2009年の欧州債務危機もそうだった。

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|「背に腹」的な減税・補助金

Several countries including Italy, Poland and Spain have cut fuel taxes, while others have called for EU state aid rules to be loosened.  
Rome is also pushing for Brussels to ease fiscal constraints to give capitals more wriggle room.
ここからは、EUが警戒する一方で、なぜ加盟国は減税や補助金に傾かざるを得ないのかを見ていく。

各国政府が欧州委に反発するのは、政治的にも経済的にも「何もしない」選択肢がないからだ。というのも、欧州の原油およびガス価格の上昇幅が約60%と、日本より圧倒的なのだ。そこには「背に腹は代えられない」現実がある。

もっとも、日本は補助金で本来なら220円を超えるような価格を170円程度まで無理やり引き下げているだけなのだが…

すでに燃料税を減税(cut fuel taxes)したのがイタリア、ポーランド、スペインだ。減税で「見た目」上のガソリン価格を引き下げようとしているのは、「食品への消費減税」で見た目の物価高を軽減しようとしている日本と同じ考えだ。

当然ながら、効果はともかく減税は財政的には悪化要因だ。

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このような加盟国と欧州委とで調整が起こっている背景には、EUの「各国の財政赤字はGDPの3%以内」という財政ルールの存在がある。

これは、「通貨は統合したが財政は各国バラバラ」というユーロ圏特有の構造的リスクに対応するもので、ドイツのような倹約的な国が、他のメンバー国の放漫財政のツケを払わないようするためのルールだ。

燃料減税を延長したイタリアはいよいよこの「赤字3%」に抵触しそうなので、各国がより柔軟に対応できる(give capitals more wriggle room)ようルールを緩和(ease fiscal constraints)すべき、とブリュッセルの欧州委に迫っている。


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|「財源がない」は方便ではない

He warned that excessive spending would “have serious fiscal implications”, given that the Covid-19 and Ukraine crises, alongside a surge in defence spending since 2022, have left governments with less fiscal firepower. 
“Our emphasis . . . is that we have limited fiscal room for manoeuvre, so whatever member states do has to be temporary and targeted,” Dombrovskis said late last month.
「過度な支出は『深刻な財政的影響(serious fiscal implications)を及ぼす』

ドムブロフスキスEU経済担当委員(経済大臣)はこう警告する。

経済大臣としてはそう言わざるを得ない。先のパンデミックとウクライナ危機、そして2022年以降の防衛費の増大のせいで、EUの政府の財政的な対応力(fiscal firepower)が低下しているのは明らかだからだ。

EUの対GDP比の一般政府債務残高は、2019年末の77.8%から昨年第3四半期には82.1%に上昇している。

この状況下で「深刻な財政不安」が生じることは、EUにとって過去6年間で3度目の経済危機になること意味する。EU政府はそれを何としてでも回避しようとしているのだ。

これを見ると、パンデミックから防衛費増大まで同じ状況を経た日本については、その債務GDP比がEUをはるかに超えていることを考えると、危機意識が相当希薄だと感じざるを得ない。

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The finance ministers of Germany, Spain, Italy, Portugal and Austria on Friday urged Brussels to impose an EU-wide windfall tax on energy companies, in order to ease the “burden on the European economy and on European citizens”.
そこで問われるべきが「責任ある(積極)財政」の中身であろう。

ドイツ、スペイン、イタリアなどの財務大臣は、エネルギー企業に対してEU全域にわたる「超過利潤税(windfall tax)」を課すようブリュッセルに要請した。

原油価格高騰で棚ぼた的にホクホクになった石油元売りなどのエネルギー業界については、追加の税負担によって財政に貢献してもらおうというわけだ。

他にも、燃料の付加価値税と消費税を大幅に引き下げたポーランドについては、税収減の分をエネルギー企業の利益に対する超過利潤税で相殺する計画があるとのことだ。

いずれも実現には至ってないが、これらの措置の名目は「欧州経済と市民の負担(burden on the European economy and on European citizens)」を軽減するためだ。もちろんいざやろうとすれば何かしら弊害があるのかもしれない。

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財政悪化を警戒しつつ物価高に対処しようとするEUと、「見た目の物価」を優先する日本。どちらが合理的かを断じることは簡単ではない。

ただ少なくともEUでは、「財政の限界」が政策判断の前提として共有されている点は、日本との決定的な違いだ。

財政悪化を指摘する警告の下、物価上昇を「見た目」だけ対処しようとする国と、経済全体での解決を検討する国。後者である欧州を「合理的」と考えるのは、自分以外がよく見える「青芝理論」の典型だろうか…


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