株式市場は動じない…ではなく、リアクションに疲れただけ?|Financial Times|2025.06.21

FT|Markets are silent - that is worrying|2025.06.21




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先週末に決行されたアメリカによるイラン攻撃。

週明け 23日、米株式市場は寧ろ上昇した。イランによるカタールの米空軍基地への報復攻撃が限定的だったことが市場に安心感を与えたとされている。日本株については、23日は下げたものの、24日は米国市場を受けて反発している。

6 月 21日付の FT コラム「Markets are silent - that is worrying」は、嵐の中でのそんな「静けさ」、いや寧ろ上昇している米株式市場の気持ち悪さについて分析している。

アメリカによるイラン攻撃前に書かれたものだが、ぜひ全文を読んで欲しい。


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|市場は動じず

Yet US equity markets have quietly crept up in recent weeks, rising by more than 20 per cent since early April - recovering from the moment they swooned after the "liberation day" tariff announcement. Indeed, they are close to record highs.
中東情勢は緊迫しつつある一方で、米国株は年初の水準に戻りつつある。

4月の「解放の日」のトランプ関税公表時には落ち込んだものの、そこから株価はじわじわと 20%以上も上昇している。過去最高値に近づきつつあると言ってもよいくらいだ。


今ってそんな楽観的な状況だったっけ?というのが素直な疑問ではないだろうか。

なぜなら、悲観できる材料を探すのに苦労はしない体。トランプ関税の猶予期間は 7月 8日までだ。このままいけば関税上乗せ分物価は上がり、経済は減速する。現に、先週 FRB は今年 10-12月の経済見通しを引き下げ(↓0.3ポイント)、物価見通しは引上げ(↑0.3ポイント)た。


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So the big market "silence" today is not expressions of escalating risk but the seeming lack of investor panic thus far.

 What's behind this reticence? One explanation might lie in what my colleague Robert Armstrong has called the "Taco" effect - the presumption that Trump Always Chickens Out on his threats. 

 この「静けさ(silence)」は何を意味するのか。本コラムでは、投資家がパニックになっていないことが背景として理由を3つ挙げている。


一つ目はいわゆる「
TACO」を織り込み済みであるということ。

TACOとは FT のコメンテーターがつけた「Trump Always Chickens Out(トランプはいつも怖気づいて引き下がる)」の略で、メキシコ料理のタコスと語呂が合うので投資家の間でバズった言葉だ。4月 2日の「解放の日」の後、S&P 500指数が 12%も下がったので、翌週の 9日には 90日間の停止を発表したトランプ大統領の動きが「怖気づいて引き下が」ったとされている。

9日の関税停止のアナウンスの後に株価は急反発した。これを受けて、今後も市場の下落次第で「TACO」が起こると予想しているのが、投資家が冷静でいられる理由のようだ。


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|ただの「リアクション疲れ」…かも

Another is a second "T" problem: time lags.
The research concluded that while "trade policy uncertainty [has] significant negative effects on economic activity ... it takes up to a year for the effects to materialise".

もう一つの理由が「時間差(time lags)」だ。即ち、効果はこれから来るということだ。

ここで言っている「The research」とは、オランダ中銀が行った研究のことを言っている。この研究によれば、1990年以降の貿易のショックが株式市場がどう反応したかを調べたところ、効果が現れる(materialise)までに一年ほどかかったとしたらしい。つまり、今が「静か」なのは別に珍しいことではないのだ。


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In addition to this, there is a third possible explanation for the lack of panic right now: disaster fatigue. 
More specifically, investors face such an overload of disorienting shocks that they have (at best) become well adapted to handling pain, without panic, or (at worst) are so stunned that they cannot process it.
三番目の理由がもっとも興味深い。「大惨事疲れ(disaster fatigue)」とのことだ。「リアクション疲れ」とも言えるだろうか。

追加関税のみならず、大型減税法案の提出、イランへの攻撃など、アメリカの政治は国内外であまりにも色々と起こし過ぎている。それでも動じない市場は、良いように見れば、それらのストレスをやりこなせるくらい十分に適応していると言えるし、逆に悪いように見れば、反応できないくらい狼狽しているとも言える、と本コラムは分析している。


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What investors face today is a looming tail risk rather than an imminent tangible disaster.
Or to use another analogy: markets are not grappling with a single "heart attack" shock (as during the Covid-19 pandemic) but a spreading economic cancer, in the form of metastasizing uncertainty around future hurt. This is not 2020.
この「大惨事疲れ」だが、見ようによっては、株式市場はショック耐性を身につけたと言えないだろうか?

そんな楽観はすべきでない、という形でこのコラムは締めくくられる。我々が直面しているのは、2020年のコロナのような分かり易いショックではなく、だんだんと迫りくる(looming)テール・リスク(非常にまれだが影響が大きい事象)だと筆者は指摘する。

テール・リスクとは、過去の統計をとって確率分布をとると「端(テール)」に位置するような事象のことを言い、日本語でいうと「発生確率は低いが、影響は非常に大きく、過小評価されがち」なことだ。
2003年に破綻したSVB(シリコンバレー銀行)とその後の株価下落は、このテール・リスクが現実化した例とされている。


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マーケットが直面しているのは「心臓発作ではなく、進行している転移性の経済がん」であると筆者は例えた。

この例えが上手いのかはともかく、「米国株はもう大丈夫そう」と安易に楽観するのは避けた方がよさそうだ。


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