トランプ関税差し止め。でも油断は禁物|Financial Times|2025.05.30

FT|Limited legal avenues available if appeal on tariffs ruling rejected|2025.05.30



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やっぱりトランプ関税って無理があったんだ、と思わせる判決がアメリカであった。とはいえ事態はそれほど楽観できるものではないようだ。

5月30日付のFT記事「Limited legal avenues available if appeal on tariffs ruling rejected」は、違法とされたトランプ関税と、そのことを受けて戦略を調整すべきか検討する EUついて興味深く伝えている。

ぜひ記事全文を読んで欲しい。

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|その解釈アウトだし…

The US Court of International Trade judgement determined that Trump had misused emergency economic powers legislation when declaring the blanket tariffs last month, which were designed to shrink trade deficits with countries around the world.
5月28日、米国際貿易裁判所(CIT)は、トランプ大統領が発動した一連の関税措置を違法と判断し、差し止め命令を出した。CIT は通商・関税に関する訴訟を扱う連邦の裁判所だ。

トランプ氏が関税の根拠とした法律で「国際緊急経済権限法(IEEPA)」というものがある。この IEEPA は全ての国に対して広範な関税を課す権限を大統領に与えるものではない、というのがトランプ関税が「違法」とされた根拠だ。



... the ruling had set out a strong historical case that the IEEPA - legislation passed in the cold war to deal with matters of national security - could not be used to address balance of trade issues.
そもそも IEEPA は冷戦時代に制定された法律で、国家の安全保障に対する「異例かつ重大な脅威」に対して大統領に特別な経済的権限を与えるものだ。今日の状況を冷戦時から見て「脅威」と見る人はいないだろう。しかも、関税を適用しようとする相手には同盟国が入っている。

CIT の判断に対し、政権側は連邦最高裁まで争うべく控訴したそうだ。トランプ関税の根拠は相当乱暴なロジックだと外国人でも分かるが、上級審で結果は変わるのだろうか…


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|どうするEU?

A stand-off between the EU and US led Trump last Friday to declare 50 per cent blanket tariff rate on goods from the bloc. He then pulled back, following a call with European Commission president Urusula von der Leyen.
くしくも、CIT の判断の数日前の26日にトランプ大統領は EU への50%関税の発動を延期したばかりだった。トランプ氏が SNS で「EU からの輸入品に 50%の関税を課すべき」と発表したのは 23 日。欧州委員長フォンデアライエン氏との電話会議を経た決定だが、打ち上げたポリシーをわずか数日で取り下げたことになる。

こういったトランプ大統領のやり方は最近、「TACO:Trump Always Chickens Out(トランプはいつもビビッてやめる)」と皮肉られている。

とはいえ、今回延期することにしたのは上乗せ分の関税だ。EU を含むアメリカの全ての貿易相手国に一律に課す 10%の「相互関税(reciprocal tariff)」は、依然残ったままだ。



The 10 per cent duty affected about 70 per cent of EU exports, worth around EUR380bn. Before Wednesday's ruling, the US had insisted the 10 per cent rate was non-negotiable.
The EU was also preparing to offer to slash regulations in some areas that are of concern to US businesses, according to people briefed on Monday's meeting. The bloc has already started to undertake a wide-ranging effort to simplify laws and cut bank on red tapes.
その EU 側だが、実は米国との交渉のためのカードを用意しているところだった。EU のいわゆる「非関税障壁」といわれるものに関して、アメリカにとって有利となる措置を検討し始めていたのだ。

非関税障壁としてよく言われるのは、製品の安全基準といった EU 独特の規制や煩雑な役所手続で、英字新聞では特に説明せず「red tape」と書かれる。大昔のイギリスで法律文書などを結んでいた赤い布のテープからきたものらしい。

EU がカードを検討するのも仕方がない。アメリカは 10%の関税適用は「交渉の余地なし(non-negotiable)」と言っているし、EU からアメリカに輸出されるモノのなんと 70%がこの相互関税の影響を受ける。

この点、日本の危機感は大丈夫だろうか。大臣が何度も訪米すればどうにかしてくれる、と勝手に期待していないだろうか。


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|勝機...では全くない

... it would be "a mistake" if the EU used the US court ruling as an excuse to back away from negotiations.
今回裁判所が違法とした関税措置には、この10%の相互関税が含まれる。

ということは、まだ係争中とはいえ、最終的にトランプ関税が実現しないかもしれない。であれば、今アメリカと真剣に交渉する必要はないのではないか?

そんな考えは二流でかつ危険だ。


"Trump could do the same thing through all sorts of domestic law. He will double down, the EU will relax and there will be less chance of a deal. And then there will be an escalation," 
今回は根拠とした法律を間違えただけで、米国は別の国内法を使ってどうにかしてでもトランプ関税を実現してくるだろう、というのが専門家の見方だ。その場合、トランプ大統領は「倍賭け(double down)」してくるとのことだ。

つまり、アメリカ側の要求は次はもっと苛烈なものになっているだろうし、合意する余地も今より小さくなっているだろう、と専門家はみている。


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"US trading partners may consider recalibrating their negotiating approach, but are still going to want some basis of certainty given sectoral tariffs still can do considerable damage to trade,"
何より、アメリカと交渉する側にとっては、ターゲットが流動的であることほど頭を悩ますものはないだろう。交渉戦略を考えるにも「some basis of certainty」が必要なのだ…


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