自動車は関税除外…ってあなたの「妄想」ですから|FINANCIAL TIMES|2025.06.27
FT|Merz 'delusional' over US tariff deal on cars |2025.06.27
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今年5月に就任したドイツのメルツ首相。
トランプ関税をめぐるアメリカとの交渉にあたり、その主張が「妄想的(delusional)」と言われてしまった。6月27日付の FT 記事「Merz ‘delusional’ over US tariff deal on cars」は、迫るトランプ関税発動に焦りを隠せないドイツについて報じている。
興味深いのは、輸出依存という構造において同じである日本の状況もなんとなく想像できてしまうことだ。ぜひ全文を読んでほしい。
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|焦るドイツ首相…でも「車」ってアレですし
メルケルさんと同じCDU(キリスト教民主同盟)のメルツ首相。EU 27カ国とアメリカはトランプ関税回避のための「枠組み」に早々に合意するべし、と EU 交渉担当者にプレッシャーをかけている。
もちろん、ドイツの主要輸出品である自動車を特別扱いするという内容の「枠組み」でだ。
欧州委員会(European Commission)という 、EU の行政府にあたる機関がベルギーのブリュッセル(Brussles)にある。このブリュッセルで働く、言わば EU の官僚が、メルツ首相に対して「もともとのトランプの狙いがドイツ自動車の輸入を減らすことなんだから、そんなの無理っす」と内々に(privately)言ったらしいのだ。
オープンの場で言わなかったのは、「そんなアホなこと言ってると恥かきますよ」との EU 官僚による配慮によるものだろうか。
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トランプ大統領の狙いは外国産の自動車。そうだとすると、自動車への関税除外に固執するドイツは、EU のための交渉全体の進捗を止めていると見れないこともない。
少なくともブリュッセルの交渉担当者は、最も困難な要素(the hardest element)ではなく、争いがそれほどでない(less contentious)な分野で先に合意し、アメリカからの信頼を得るべしと主張しているようだ。戦略としては非常に納得のいくものである。
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|「妄想」と言われても…
しかしながら、「妄想ですから」とバカにされようが、必死にならざるを得ない理由がドイツにはある。
日本と同じ輸出大国のドイツでは、自動車セクターが GDP の5%を構成する。トランンプ関税が発動されると自動車業界には毎日数百万ユーロの損失が発生する、と業界団体は主張しているのだ。そういえば、似たようなことを日本の政治家も言っていたような…
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A UK-style carve-out would be complicated if it involved a quota system. …A similar deal for the EU would leave member states fighting over the allocation of the quota.
先日合意した米英の間の「枠組み」では、割り当て(quota)システムというものをとった。割り当てとは、米英間で合意されたものでいうと、イギリスからアメリカに輸出される自動車のうち、10万台までは関税 10%、それを超える部分は 27.5%にする、という具合だ。
これを多国間共同体である EU に当てはめるとなると、優遇関税分をどう分けるかについて加盟国間のバトルが始まって(leave member stated fighting)収拾がつかなくなる、とこの記事は言っている。当然ながら、どの国も最小の犠牲で最大の恩恵に預かろうとするからだ。
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ここまで見ると、7回も担当大臣が渡米しながら交渉が進まない日本についても、事情は同じなんじゃないかな、と思えてくる。
日本の場合、バトルするのはもっぱら国内の官僚たちだ。自動車や米といった影響を受ける業界のプレッシャー下にある役人が、「割り当て」案をめぐって仁義なきバトルを延々と続けているのではないだろうか。
政府の担当者にとっては、敵は外ではなく中にいる。交渉全体の進行がどんなに遅くなろうが、他省が背負う負担をこっちに付け替えてもらうことは断固として拒否しなければならないのだ。
ディールが成立しなければ、50%の「相互」関税が来月9日から適用ということになる。果たして審判の日の結果はいかに…
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