ゴールデンに高くついたUSスチール|Financial Times|2025.06.17
FT|US steel deal embodies golden age of Trump meddling|2025.06.17
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US スチールの 100%買収を完了したと発表した日本製鉄。その数日前である 6月 17日付の FT コラムはこう解説している;
It turned out that wasn't enough to get control. In the end, Nippon has had to pay twice, in effect - first to US Steel shareholders, and then to President Donald Trump.ここの「that」とは、2023年12月に交わした両社間の合意を指す。何を合意したかというと、日鉄が US スチールという会社を買うに当たって70 億ドルのプレミアムを支払うという内容だ。プレミアムとは、その時のUSS の会社の価値(時価総額)に上乗せする額のことで、日鉄はUSS を市場で取引されているよりも割高で買うという約束をしたということだ。
しかし、その約束でさえ「十分ではなかった(wasn’t enough)」。
18日の日鉄の発表によれば、買収総額は 141億ドル(2兆円)に上ったとのことだが、当社は結局、当初の合意の2倍を払う羽目になった(had to pay twice)。では誰に払ったかというと、実質的には USS の株主とトランプ大統領に対してである…とこのコラムは批評している。
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|追加の条件
Over and above the $14.9bn purchase price, Nippon will invest an additional $11bn in the company over the next three years, more than quintiple US Steel's average annual capital expenditure. The US government will get a so-called "golden share", giving it power over operational and governance matters.
日鉄が払うのはUSSの株プレミアムだけではない。
日鉄と USS スが米国政府との間で締結した国家安全保障協定を締結には、2028 年までに日鉄が約 110 億ドルを投資することや、米政府に「黄金株(”golden share”)」を発行することが含まれている。
投資を約束した110 億ドルは USS 年間の設備投資額の5倍に相当する。「黄金株」とは「拒否権付種類株式」という種類株式の一種で、別にアメリカの法律で定めているものではない。今後、US スチールの社名変更や工場閉鎖などは「黄金株」を保有する米政府の同意なしには行えなくなる。
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|「象徴的な案件」…でも象徴してるのは何?
This last part is highly unusual. After all, one reason a bidder generally pays a premium in an acquisition is to secure full dominion on the company. In this case, Trump's and future administrations might have power to select some board members, veto others, and make employment and investment decisions, ... concessions almost unprecedented for a private company.この「黄金株」だが、「highly unusual(かなり特異である)」だとこのコラムは批評する。
ここで言っているように、買収側がわざわざ市場で取引されている価格以上で会社を買おうとするのは、その会社の「full dominion(支配権)」を得るためだ。取締役の専任や投資判断にまで米国政府のお伺いが必要、つまり支配権を諦めてまで高値で買収するというのは、民間会社にとっては「前例のない譲歩(concessions almost unprecedented )」であるとしている。
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|「肉1ポンド」
For would-be dealmakers, having more than a pound of flesh means having currency to deal with the Trump administration.
By further blurring the faint line between business and politics, the deal could prove expensive for everyone else too.
「肉1ポンド(a pound of flesh)」とは、シェイクスピア「ヴェニスの商人」の中で、高利貸しのシャイロックが金を貸すにあたって付した条件だ。その条件とは「期限内に返済できなければ、利子の代わりに(人の)胸の肉1ポンドを切り取る」という内容だ。
今日において、アメリカの老舗企業を買収するための「条件」は、いかにトランプ政権と上手くやっていくか、つまり政治だとこのコラムは言っている。
「黄金株」の発行など、純粋にビジネス目線ではあり得ない「条件」を差し出さなければならなかったという日鉄・USSディールの事実が物語るのは、アメリカではビジネスと政治のラインがより曖昧になってきたということを意味するようだ。
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