自然災害が多くて保険会社もヤバいんです…ウソでした!|Financial Times|2025.06.10
FT|US insurers' profits double as rising prices exceed extreme weather claims|2025.06.10
金融庁が昨年12月に公表した「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ報告書」の中にある記述だ。自然災害の頻発・激甚化は、いわゆる大手損保会社によるカルテル行為(「保険料調整行為事案」)の背景だとされている。
損保会社各社は、自然災害関連の保険金支払いが嵩んでも赤字は避けたいので、一定の保険料水準を維持することが必要だった。そのため、競争を避けて事前に保険料を調整するインセンティブが生じたとされている。大手鉄道グループが企業保険契約の入札を大手損保数社にかけたところ、各社が横並びの保険料を提示し担当者が不審に思ったことが発端となった。
気候変動のせいで損保会社も大変なんだな…と思うのは早計のようだ。少なくともアメリカの損保会社に関しては。
6月6日付のFT記事「US insurers' profits double as rising prices exceed extreme weather claims」は、大規模自然災害が普通になった今日でも逞しく(?)稼ぐ損保会社について伝えている。
ぜひ全文を読んでみてほしい。
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|災害は増加、だけど利益も増加
ハリケーンや山火事などの自然災害による昨年の被害額は世界で約 3,200 億ドル(45 兆円)だったそうだ。2023 年からは約 3 割強の増加だそうだ。そんななか、約 2 倍の増益を果たした業界がある。アメリカの損保会社だ。
A survey of companies that account for at least 97 per cent of US property and casualty cover ... found that the aggregate after-tax profits of the industry surged to $171bn last year, compared with $92bn in 2023.
The data showed insurers more than offset larger losses by increasing premiums. ... the strong earnings figures were the result of "an aggressive push for significant rate and price increases" by insurers.
昨年はアメリカだけでも大きなハリケーンが5つも来た。そんな中、アメリカの損保会社の税引後の当期純利益は、920 億ドルから 1,710 億ドル(24 兆円)まで上昇したのだ。
自然災害の増加のせいで保険金支払いも増加する、これは減益要因では?…この問いに対する答えはアメリカでは「not necessarily」のようだ。なぜなら、ここにあるように、保険金支払いによる損失分を「相殺する以上(more than offset)」に保険料(premiums)を上げればいいからだ。
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|保険会社はより「健全」に
The industry's "combined ratio" - a measure of underwriting profits that looks at claims and costs as a percentage of premiums - was the best since 2013. The sector's combined ratio fell to 96.5 per cent last year, from 101.6 per cent the previous year.保険会社の収益性を測る指標に「combined ratio」というものがあり、日本語では総合損害率とか合算率とか言われる。
この比率は、保険会社にとっての損害(支払った保険金)と営業費用(人件費・広告費など)とを合算したものを、契約者から受け取った保険料で割ったもので、100%より高いと、保険料収入よりも総合的な支出が大きい、保険会社は赤字ということになる。
自然災害が増えると保険金支払いも増えるので、コンバインドレシオは普通は増加する。ところが、上にあるように、アメリカの損保会社に関しては、これが 2013 年以来でベストの値、すなわち最小になったのだ。コンバインドレシオが 100%を切る 96.5%ということは、保険会社は黒字ということを意味する。コンバインドレシオの計算で分母に当たる保険料収入が、保険金支払いや営業費用の増加以上に伸びたということだ。
自然災害が増えると保険金支払いも増えるので、コンバインドレシオは普通は増加する。ところが、上にあるように、アメリカの損保会社に関しては、これが 2013 年以来でベストの値、すなわち最小になったのだ。コンバインドレシオが 100%を切る 96.5%ということは、保険会社は黒字ということを意味する。コンバインドレシオの計算で分母に当たる保険料収入が、保険金支払いや営業費用の増加以上に伸びたということだ。
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|「物価高」は便利な方便
Some consumers have questioned the justification for price rises that have sometimes outstripped inflation.
Although the industry tends to cut the cost of cover after a period of rising prices, several large US insurers told shareholders on first-quarter investor calls that they were unlikely to enter an aggressive price-cut cycle.
自然災害の増加を受け、これまで通りのリスクは負えないとする損保会社は保障を縮小する。他方で、保険料の方は物価高を理由にしれっと上げる。
トランプ関税は絶好の言い訳だ。アメリカは物価高になるといわれているから、保険料はさらなる引き上げが必要になると説明し回っている。たとえそれが、契約者にとっては物価高では説明しきれないほどのアップであっても。損保会社にとってはインフレは便利な方便である。
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「近年、地球温暖化に伴う気候変動により自然災害リスクが増加しており、将来も増加し続ける可能性があることに鑑みると、火災保険参考純率の水準をよりリスクに見合ったものとすべく、算出方法の更なる見直しを検討していくことが重要である。」
前出の金融庁の報告書にはこう書いてある。日本もアメリカのようになっていくのが避けられないということだろうか…?
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