南アの黒歴史。余計に面倒臭くする米政権|Financial Times|2025.05.26
FT|Trump picks at wound over South Africa's land|2025.05.26
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5月21日にホワイトハウスで行われた、トランプ大統領と南アフリカのラマポーザ大統領との会談。意図的だったのか、先日のゼレンスキー大統領との会談に引き続きニュースバリューのある絵となった。
トランプ大統領は会談中に突然、照明を落とすよう指示し、「南アフリカで白人農民が迫害されている」と主張する映像を流した。
その映像には、十字架が並ぶ野原や白人農民が殺害されたとされる場面が含まれており、トランプ氏はこれを「ジェノサイド(集団虐殺)」の証拠と主張した。
Trump's key claim was that "officials" in South Africa were saying "kill the white farmer and take their land".
South Africans know the reality is very different.そう、やはり現実はそうではないのだ。5月26日付のFT記事「Trump picks at wound over South Africa's land」は、そんな南アフリカ共和国の現実について興味深い内容を伝えている。
ぜひ記事全文を読んで欲しい。
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|南アにおける土地接収の歴史
AIにまとめてもらった「南アの土地接収に関する歴史」が以下だ。これを踏まえてから記事を読むと内容がよく理解できる。これに限ったことではないが、人間というのはいかにクソかがよく分かる。
1. 植民地時代(1652年〜)
1. 植民地時代(1652年〜)
- オランダ東インド会社がケープに入植し、先住民コイコイ人やサン人の土地を奪う。
- その後、イギリスが支配権を握り、白人による土地の独占が進行。
- 黒人は全土のわずか7%の土地しか所有できないと法律で規定。
- 白人は人口の少数でありながら、90%以上の土地を所有。
- 黒人は「ホームランド」と呼ばれる貧しい地域に強制移住。
- 都市部や肥沃な農地は白人が独占。
- ANC政権は「土地返還」「再分配」「開発支援」の3本柱で改革を進める。
- しかし、進捗は遅く、2020年代でも白人が農地の大半を所有。
- 歴史的不平等を是正するため、政府が補償なしで土地を収用できる法律が成立。
- 国内外で賛否両論を呼ぶ。
Brutal evictions forced some 3.5mn Black people off their ancestral land, which was frequently expropriated without compensation and sold at low prices to white farmers. By the time the country became a multiracial democracy in 1994, white farmers still held about 77mn hectares of the country's 122mn hectares of land.ほぼ無償で土地から追い出された黒人は350万人。アパルトヘイトが終わった94年時点でも6割強の土地が少数の白人の所有になっていた。
Today, white farmers still roughly half of the country's land although only 7 per cent of citizens are white. A lack of formal access to land has stopped the Black majority and other historically disadvantaged groups from tapping into business prospects, including borrowing against collateral, that such ownership brings.2025年の今日でも、人口の7%の白人が所有する土地は国土の50%に及ぶそうだ。つまり、アパルトヘイト廃止後の30年で10%pt強しか戻っていないことになる。
土地の所有がなんでそんなに重要かというと、ここで伝えられている通り、例えば土地を担保に銀行から融資を受けるといった、ビジネスをするベースとなるものが土地だからだ。銀行借り入れができれば、担保に入れている土地で工場や農場が経営できたかもしれない。30年前にこれができていれば、南アにおける人種間の経済格差は今ほど大きくなかったかもしれないのだ。
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|簡単にいかない解決、干渉してくる「国際」政治
A law passed in January opened up the possibility for seizures without compensation, but there has not yet been a single such case. The Democrat Alliance, a party in the governing coalition, has launched a legal challenge arguing it is unconstitutional.今年1月に「土地収用法(Expropriation Act of 2025)」というものが南アで成立した。この法律は、アパルトヘイト時代から続く土地の不平等な所有状況の是正を目的としたものだ。
この法律により、技術的には白人からの補償なしでの土地の接収を可能になったとのことだ。トランプ大統領が白人迫害やジェノサイドといっているのはこのことだろう。
もっとも、この記事が伝えているように、補償なしでの接収はまだ1件も発生していないし、与党連合の一部がこの法律は憲法違反として裁判所に提訴している。南ア憲法が認めているのは飽くまでfair compensation(公正な補償)との引き換えによる土地接収だ。
そう、問題は人種間の迫害ではなくて、不当に奪われた土地の新たな帰属について決めていくことを、いかに社会の混乱なく進めていくかということだろう。
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Urged by his South African-born adviser, Elon Musk, Trump has claimed this law aims to seize land from white people and has launched a resettlement scheme for the Afrikaner minority in the US. Washington has claimed the group, who trace their roots to the first Dutch settlers in 1652, are "victims of unjust racial discrimination".ここでトランプ大統領補佐官のイーロン・マスク氏が出てくる。彼は南アフリカの出身だ。同氏のプッシュがあったのか、先日、全ての難民の認定作業を停止している米国に、アフリカーナーと呼ばれる南ア国籍の白人59人が到着した。彼らはアメリカでの難民認定される見通しであるとのことだ。
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いずれにせよ、南アの土地再分配は順調に進んでいない。これが依然として南アを世界で最も不公平な国の一つになっている理由だ。
似たようなコンフリクト、だいたいは植民地支配や戦争などの歴史的背景によるものだろうが、そんなものは世界中にたくさんあるだろう。既得権を失う者がいる限り、公平を目指す改革であってもなかなか進まない。
先日のホワイトハウスでの一コマは、ただでさえ面倒臭い問題が、たまたま米政権に”関係者”がいたせいで余計な注目とインフルエンスを集めることになった、ということだろうか。問題からさらに問題を作るのは、決して賢明な解決とは言えないのだが…
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