トランプ関税のおかげで戦争が終わる?|Financial Times|2025.04.14
FT|Putin's war chest shrinks as oil prices slide|2025.04.14
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トランプ関税の発表は、意図せずして平和に貢献するかもしれない。
ロシア制裁のためあれこれ苦労して国際調整をしなくてもよかった…までは言っていないが、4月14日付のFT記事「Putin's war chest shrinks as oil prices slide」は、今回のトランプ関税の「怪我の功名」的な側面として、追加関税措置の公表後、ロシアの戦争継続が困難になるくらい原油価格が下がっている事情について伝えている。
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|ロシアの戦費は枯渇する?
Moscow's budget - about a third of which comes from oil and gas - may be as much as 2.5 per cent lower than expected in 2025 if crude oil price stay at current levels. That would force the Kremlin to increase borrowing, cut non-military spending or draw down its remaining reserves.
第二パラのこの文が言っていることが全てだ。原油価格が今のレベルでずっといくと、ロシアは財政的に戦争を継続できなくなってくるかもしれない。
先週の木曜、ロシア産ウラル原油の価格は2年来の安値まで下落した。この1バレル50ドル周辺という原油価格は、ロシアが2025年の予算で想定していた1バレル69.7ドルの遥か下を行く。ここまで原油価格が落ちたのは、その前に発表されたトランプ関税に加え、Opec プラスが増産の意向を示したためだ。
石油の価格も結局は需要と供給のバランスで決まる。トランプ関税の導入によって世界経済が減速すれば、経済の血液たる石油への需要も弱まるということだ。
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|トランプ関税の意図しない効果
The shift also shows how Trump's tariff war is indirectly hurting the Russian economy despite the US president's recent overtures to Moscow and promise to rekindle economic ties as part of negotiations to end the war in Ukraine.
トランプ関税が「間接的に(indirectly)」にロシア経済の重しになり、ウクライナ・ロシア戦争をこれまで優位に進めていたロシアの戦争継続が困難になることは、これまで紛争を親露的に解決しようとしていたトランプ大統領の方針と矛盾する。
今のロシア経済だが、もともと戦争目的の政府支出でGDPが平時よりも嵩上げされている。このブースト効果も段々と減速していくということで、過去2年ぐらい4%成長だったロシア経済は、今年は1~2.5%まで減速するとの予想をこの記事は伝えている。
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If oil prices hold near current level, Russia could lose about a trillion roubles this year, the equivalent of 2.5 per cent of its expected budget revenues, ... That would mean GDP growth falling by 0.5 percentage points, ...ロシアが原油の輸出で稼いだ金は、「national welfare fund」というsovereign wealth fund(SWF)が色々なプロジェクトに投資している。SWFとは政府が運用するファンドのことだ。厳密には異なるが、イメージとしては日本のGPIF(政府年金投資基金)に近い。原油価格が下がるということは、このファンドの元手も細ってくるということだ。記事によれば、ファンドの資産は2000年に比べ3分の2のサイズになっているらしい。
SWFが投資するプロジェクトには国内経済ブーストのための戦争関連の支出も含まれるだろうし、戦争に関係ない真っ当な経済政策目的の投資もあるだろう。これら早晩資金不足に陥ることになる。
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|まず切られるのは…
With the welfare fund running lower, Moscow may be forced to cut spending, which would be a shift from its wartime increase. Economists warn any cuts will probably fall on non-military budget areas, such as social spending.
最後にグサッとくる文だ。
原油価格の低下が戦争を終わらせるのであればハッピーエンディングなのだが、政府が減らすのは軍事関連費からとは誰も言っていない。ここで書いているように、ロシアの国民のための「non-military budget」である社会目的予算から削られるかもしれない。即ち、失業給付や年金、生活保護から減らされるということだ。
世の中はどこまでいっても不条理である。
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