トランプ関税は雑な計算、でも影響はリアル|Financial Times|2025.04.04

FT|Economists decry formula for 'stupid and destructive' policy|2025.04.04

FT|American coffee drinkers hit by double shot of pain from levies|2025.04.04






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ついに迎えた「解放の日」。

4月5日から始まった全ての輸入品に対する一律10%の「基本関税」。9日からは、特定の国や地域に対してさらに高い関税を課す「相互関税」が適用になる。

日本に適用されるのは「相互関税」のは24%だ。ベトナムは46%で日本より高い。他方、イギリスやブラジルに適用されるのは「基本関税」の10%のみだ。

この「相互関税」の決まり方。日本のメディア(
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN030N90T00C25A4000000/)でも報じているが、結構単純に決めたものだったことがばれてしまった。

当然、考慮すべき点がすっぽり抜け落ちている。その点を、4月4日付のFT記事「Economists decry formula for 'stupid and destructive' policy」を始め英文メディアは上手く説明してくれる。

それでは一緒にポイントを見ていこう:


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|結局憎いのは貿易赤字?

The formula used to calculate the tariffs took the US's trade deficit in goods with each country as proxy for alleged unfair practices, then divided it by the amount of goods imported into the US from that country.
がトランプ関税の決まり方について簡潔に説明している。

相手国との貿易赤字額を米国への輸入額で割る。これをさらに2で割ったものが実際に適用になる「相互関税」率の正体だ。

これが雑というのは、非関税障壁や付加価値税といった諸々の要因による貿易の不公正さを、貿易赤字の額が「proxy(代理)」として表す、と単純化してしまっている点だ。

この考えに立つと、例えばイギリスに関しては、アメリカから見た対英貿易赤字はマイナス、即ちアメリカにとっては貿易黒字なので、不公正貿易に係る問題は寧ろアメリカ側にあることになる。イギリスについて今回の「相互関税」率の式に当てはめると、適用される関税率はマイナスになってしまう。そのような対貿易収支が黒字の国には「基本関税」であるベースラインの10%を適用するという理屈だ。


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分かり易いと言えばそうだが、雑すぎるというのがエコノミストの指摘だ。次のように言っている;
Economists said that methodology was deeply flawed and would not succeed in its aim of "driving bilateral trade deficits to zero" because ...  trade balances are driven by a host of economic factors, not simply tariff levels.
... the formula was "a figleaf for Trump's misguided obsession with bilateral trade imbalances" and there was "no economic rationale" for the tariffs.
"As long as the US does not save enough to finance its investment, it has to borrow from the rest of the world. That requires it to run a trade deficit. Tariffs don't change that logic."


この三つが言わんとするところを理解するには国際収支とマクロ経済学の知識が必要だが、
とりあえず理解したい場合、自分にとって最も説得的だったのが日銀の白川元総裁の講演の中の一節だ:
第一に、経常黒字や赤字は経済主体の自発的な選択の結果として生じるものであるため、その存在自体が問題であるとはみなすべきではない。経常収支のトレンドは、貯蓄・投資バランスの長期トレンドを反映したものであり、経済情勢の変化や人口動態に強く左右される。
記事の指摘にあるように、「a host of economic factors」で決まったもの、「貯蓄・投資バランスの長期トレンドを反映したもの」を、関税率の調整で解消しようというのは筋が違うということだ。



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|コーヒーが高くなるのは厳然たる現実

また、厳然たる事実としてあるのが、アメリカでどう頑張っても生産できないものは、輸入するしかないということだ。

4月4日付のFT記事「American coffee drinkers hit by double shot of pain from levies」は、ただでさえ価格高騰が激しいコーヒーやチョコレートに対して、アメリカ人はトランプ関税のせいでさらに払わされることになることを伝えている。



The levies, which will hit coffee imports from Brazil, Colombia and Vietnam, are expected to push up prices in shops and cafes at a time when bean costs have already soared amid supply shortages.
コーヒー豆には2種類しかなくて、高級豆といわれるアラビカ種と、インスタントコーヒーに使われるロバスタ種とがある。前者を生産するブラジルやコロンビアには「基本関税」の10%、後者を生産するベトナムには「相互関税」の46%が、それぞれトランプ関税の下で適用される。

これらのコーヒー豆は生産地の異常気象の影響で既に記録的な値上がりとなっている。記事中で「the ultimate nation of coffee drinkers」と表現されるように、コーヒー豆の最大の輸入国はアメリカだ。その
アメリカ人だけが関税分を追加で払うことになる。



以下は記事でコメントしている商社の調査部長の指摘だが、もっともな内容だ。アメリカがいくら国内生産回帰を目指そうとも、それが非現実的なものが厳然としてあるということだ。
"At the end of the day, chocolate and coffee are not like automotive or ship-building, which Trump is trying to encourage more domestic production of," she said. "The USA simply cannot produce these products."


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最後に、こういう事情を全部分かってやってんのか?という趣旨で、記事は以下のコメントで締め括られる。
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