ついに蜂起したマスク氏|FINANCIAL TIMES|2025.07.04
’Elon has finally woken up': Musk battles to save Tesla from Trump|2025.07.04
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Elon Musk donated more than $250mn to elect Donald Trump. In return he received a bill that could cost Tesla billions.辛辣な皮肉から本記事は始まる。
2.5 億ドルをトランプ候補に献金したテスラ社が見返りとして得たのは、同社にとって数十億ドルのコスト増となる法案だった。
7月3日に署名成立した、トランプ氏の肝いりの大型減税法案。トランプ氏が「大きく美しい法案("big, beautiful bill")」としたこのBBB法案の中身、よく見ると EV メーカーとしてのテスラの収入源を危うくする内容が含まれていたことについて、7 月 4 日付の FT 記事「’Elon has finally woken up': Musk battles to save Tesla from Trump」は伝えている。
ぜひ全文を読んでほしい。
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|「温暖化対策潰し」がテスラを追い込む
While Trump worked to jam the bill through Congress this week, Musk called it an “abomination” and threatened to target lawmakers who supported it with hostile donations — and even launch his own political party.このBBB法案、マスク氏によれば「忌まわしいもの(abomination)」とのことだ。ディスるにとどまらず、マスク氏は同法案を支持する政治家に対してネガキャンをすると脅したり、新党「アメリカ党」の立ち上げを表明するなどした。
マスク氏がBBBに反対する「表向き」の理由は、政府債務の増加により米財政状況がより脆弱になることへの警鐘…のはずだったが、実は彼の反対の主な理由は、BBBにある「温暖化対策つぶし」であると本記事は伝えている。
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His “big, beautiful bill” targets a third system, the federal “corporate average fuel economy” (Cafe) standards. The programme penalises automakers whose vehicles fall short of fuel-efficiency targets and rewards those that produce no emissions with clean air credits, which can then be sold on to gas-focused rivals to offset their fines.「emissions credit」といって、温暖化ガスの制限を超過してしまう分を他から買うという制度がある。
例えば自動車でいうと、排出ゼロ車両の販売比率を義務付けられた自動車メーカーは、目標未達の場合、他社からクレジットを購入することで未達分を補填する仕組みだ。日本でいうとカーボンクレジットのようなものだろうか。EVであるテスラ社はクレジットを「売る」側だ。
トランプ大統領はこの「emission credit」の制度を潰すことをモットーとしている。その名目は、車の価格を(EV車はガソリン車より高めなので)引き下げるためだ。
トランプ大統領はこの「emission credit」の制度を潰すことをモットーとしている。その名目は、車の価格を(EV車はガソリン車より高めなので)引き下げるためだ。
この「クレジット」制度、連邦環境保護省(Environmental Protection Agency)による規制やカリフォルニア州独自の規制といった複数の制度があるらしいが、テスラが恩恵をうけているのが通称Cafeという制度で、本制度の下でテスラ社が売るクレジットによる利益は、テスラ社にとってどんどん重要になっていたとのことだ。
例えば、本記事が伝えているのは、今年の第一四半期だけでも、このセールスがなければテスラ社の利益は 35%もマイナスになるそうで、その額は 5.95億ドル、これは同社の純利益である
例えば、本記事が伝えているのは、今年の第一四半期だけでも、このセールスがなければテスラ社の利益は 35%もマイナスになるそうで、その額は 5.95億ドル、これは同社の純利益である
4.09億ドルを凌駕する額だ。
逆境はこのエミッション・クレジットに止まらず、EV 業そのものにも大きな影を落とす。
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|TTT:敵対するものは徹底的に潰す
In response to Musk’s attacks, Trump suggested that the so-called Department of Government Efficiency (Doge), which Musk himself founded, should cancel SpaceX’s and Tesla’s federal contracts.
Tesla has also warned that Trump’s unpredictable tariff policy and trade war with China will disrupt its supply chain, reduce its access to vital materials and make it a target for retribution because of Musk’s connection to the administration.
逆境はこのエミッション・クレジットに止まらず、EV 業そのものにも大きな影を落とす。
テスラ社が展開する電気自動車用のチャージステーション、給電は屋根に並べたソーラー電池によるそうだが、これへの税優遇もなくされようとしている。
他にも、上にあるように、マスク氏自らがかつてトップを務めた政府効率化省(DOGE)が、今度はマスク氏関連の会社との契約の「仕分け」に乗り出していたり、トランプ関税や中国との貿易摩擦が、EVを製造するためのサプライチェーンをより割高にしようとしてたりするとのことだ。
自ら推し進めた政府効率化が、自分のビジネスの首を絞めることになる。これ自体は大いなる皮肉であるが、マスク氏もこうなることは薄々想定できたのでは?というのは言うに易しだろうか。それとも、トランプ氏との良好の関係が続く限りは、DOGE やトランプ関税の影響はあっても、自社に限っては特別優遇されると信じていたのだろうか。
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In the US, there is little hope of reviving US federal emission credits while Trump is in office. But California has sued over the administration’s efforts to shut down its scheme, in which Tesla has by far the biggest balance of credits.テスラ社にとって小さな望みは、民主党が強いカリフォルニア州がエミッション・クレジット制度潰しに反対する訴訟を起こしていることだ。他方で、トランプ自身が「潰し」を再考する望みは限りなく薄いとのことだ。
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“Elon has finally woken up to this, but talk about a day late and a dollar short,” they added.
Trump retorted that “without subsidies, Elon would probably have to close up shop and head back home to South Africa”.「イーロンはようやく立ち上がったが遅すぎで資金力も足りない」
「補助金がなければイーロンは廃業して南アに帰らざるを得なくなるだろう」
一度袂を分けることとなったものへの当たりは厳しい。
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